多くの人にとって職場は長く過ごす場所です。それゆえ、職場で起こる様々な問題は自分の生活に大きな影響を与えます。しかし、会社に対して個人で立ち向かっていくのは難しい場面が多いでしょう。
法律(ケースによっては憲法も!)は、個人と会社との間の交渉力の歴然とした差を考慮して、個人が理不尽な目にあわないように様々なルールを定めています。職場で孤立したとき、トラブルに巻き込まれたとき、法律の専門家である弁護士は法律を使ってあなたの権利を守ります。
主な対応内容
解決事例
会社から執拗な退職勧奨を受け、精神的に病気になってしまい退職。その後、労働審判を申立て、未払残業代、慰謝料などを主張し、退職金相当額の解決金の支払いを受け、解決しました。
【証拠散逸状態から未払い残業代数百万円を回収】
タイムカードがなく、残業代が全く支払われていなかったケースです。PCの作業記録や業務メールの送信時刻などを詳細に集めて労働時間を立証し、裁判上の和解で残業代の支払いを受けました。
弁護士 河村 洋
賃金の減額(給料のことを法律用語で「賃金」といいます。)をされてしまった。
会社(雇い主が個人でも同じ。)の決定に従うしかないのでしょうか。
(1)契約を一方的に変えることはできない(原則)
雇われている側(法律用語で「労働者」といいます。)は、雇い主(法律用語で「使用者」といいます。)のもとで働いていますが、それは、「契約」しているから働いているのです。
少し詳しく書くと、使用者が賃金を払うことを約束し、労働者が使用者の指示に従って労務の提供をすることを約束し、その約束が合致(合意)して契約(労働契約)が成立しているから、労働者は指示に従って働いているのです。
賃金(退職金も含みます。)を減額するという同意については、サインのある同意書のような書面があっても、厳格に判断するという最高裁判所の判例があります。
契約(法的な意味を持つ約束)を一方的に変更することは、原則として、できません。契約を変更するには、変更点についてのお互いの了承(合意)が必要です。
(2)合意のない賃金減額はできない
賃金の減額も契約の変更ですから、減額についての労働者の了承がなければ、賃金減額はできません。
したがって、会社は約束した賃金額よりも低い賃金しか支払っていない(賃金支払債務の債務不履行)のですから、その不足分を遅延損害金も加えて、労働者は使用者に請求できます。
(3)納得していないけれど賃金減額の同意書にサインしてしまった!
「別居しないで婚姻費用を請求できるか」という紙にサインしてしまった、いやだったけど雰囲気的に断りづらくてサインしてしまった。
このような場合でも賃金減額に労働者が同意したとはなりません。
ア 今回の同意書のような法的な意味をもつ意思をあらわした書面にサインや印鑑を押した場合(専門用語で「処分証書」といいます。)、この書面は証拠として通常強い力を持ちます。
イ しかし、賃金(退職金も含みます。)を減額するという同意については別です。
賃金(退職金も含みます。)を減額するという同意については、サインのある同意書のような書面があっても、厳格に判断するという最高裁判所の判例があります。
労働者は使用者に対して交渉上弱い立場にあることを考慮して、労働者の賃金減額の同意の行為が「労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」という点からも判断せよ、と最高裁は言ったのです。
とても使用者にとって高いハードルで、しかもこの証明は使用者の側がなさなければならないため、賃金減額の合意が認められることは事実上ほぼありません。
(4)降格に伴う賃金減額
ア だれをどのような役職・職位につけるのか(人事権の行使)については使用者に広い裁量が認められているため、使用者による降格命令は、人事権の濫用といえるような場合でなければ無効となりません。
イ しかし,降格に賃金減額が伴う場合は別です。
賃金減額は労働者の生活に重大な影響を与えるため、賃金減額を伴う降格については、人事権の濫用と判断される可能性が高まります。どの程度の減額幅なら濫用となるのかはケースバイケースというほかありませんが、一般論として、減額幅が賃金の10%を超える場合は,人事権の濫用と判断される可能性はかなり高まると考えます。
なお、そもそも降格・役職変更に伴う賃金変動基準について何の定めもない場合はそもそも降格・役職変更に伴う賃金減額はできません。
(5)個別査定・人事考課による賃金減額
個別査定・人事考課による賃金減額の有効性を考える際、3つの段階に分けて考えます。
ア まず、人事考課に基づく賃金変動制度・基準について、合意されている又は就業規則で定められていることが必要です。
賃金変動制度・基準について何らの定めもない場合は、そもそも個別査定・人事考課による賃金減額はできません。
イ つぎに、賃金変動制度・基準について定められていたとしても、その内容が合理的でなければなりません。
何をもって合理的といえるのかはケースバイケースというほかありませんが、基準・賃金の変動幅の明確性、減額幅の程度が重大なポイントとなると考えます。
ウ 最後に、実際の査定・人事考課が合理的であることです。
これもケースバイケースですが、賃金減額幅が大きい場合は、労働者への不利益の程度が大きいため、実際の査定が不合理と判断される可能性が高まると考えます。
(6)就業規則(賃金規定)の変更による賃金減額
原則として契約を一方的に変えることはできないと上で書きましたが、その例外が、労働者に周知されている就業規則(賃金規定)で賃金減額について定めていて、かつ、その定めの内容が合理的な場合です。
ア 就業規則の周知
就業規則(賃金規定)が、見やすいところに張り出されている、備え付けてある、コピー(紙やデータ)を労働者に渡している、社内のイントラネット上で閲覧できる状態であれば、「周知」されているといえます。
イ 就業規則での賃金減額の内容が合理的か
これについては、労働者側の不利益の程度、使用者側の変更の必要性、交渉・説明経過、社会情勢等を考慮して判断するということになっていて、ケースバイケースというほかありません。
しかし、減額幅が10%を超える場合は、一般に労働者の不利益の程度は重大であるため、合理的と認められるハードルは高くなります。
(7)労働協約に基づく賃金減額
原則として契約を一方的に変えることはできないと上で書きましたが、その例外の一つとして、労働協約(使用者と労働組合の労働条件についての合意書面)に基づく賃下げがあります。
この有効性もケースバイケースですが、労働協約による賃金減額にも限界があります。また、非労働組合員でも、法律が定めた高いハードル(労働組合法17条)をクリアーしている場合には、その労働協約が原則として適用されます。
(8)まとめ:賃金減額(賃下げ・減給)のハードルは
使用者にとってかなり高い
労働者にとって賃金はいわば生活の糧であり、これが減額されると生活に重大な影響が生じます。そのため、法律と判例は、賃金減額(賃下げ・減給)的ハードルを使用者にとってかなり高く設定しています。
賃金減額を突きつけられてしまった場合は、弁護士に相談し、賃金減額の有効性についての助言を得てください。
以上
弁護士 河村 洋
正社員(期間の定めのない契約。定年までの契約期間。)で会社に入ったけど会社を辞めたい。
会社を辞めたいけど辞めさせてもらえない。退職させてもらえない。
会社(雇い主が個人でも同じ。)が辞めさせないようにいろいろと言ってくることに従う必要はあるのでしょうか。
(1)会社が同意しないと辞められない?
これは誤りです。
雇われている側(法律用語で「労働者」といいます。)は,「辞めます」と雇い主である会社(法律用語で「使用者」といいます。)に伝えれば,伝えた次の日からカウントして2週間経過すれば,会社が何を言おうが辞められます(民法627条1項)。どんな理由であっても辞められます。理由を伝える必要もありません。
ただし,「2週間」という予告期間は契約や就業規則で1か月までなら伸ばすことができると裁判所が判断する場合があります。契約書や就業規則の「退職(辞職)」の項目をみて,予告期間が1か月に伸ばされていないか確認しましょう。
(2)辞めるのは仕方ないが3か月後だ、は本当?
上の(1)で書いたように,誤りです。
退職の予告期間を2週間から伸ばせるとしても,せいぜい1か月が限度です(民法627条2項,3項は「使用者から」の解約の場合のみです)。
さて,どうして退職(労働者から雇用契約を解約すること)の自由は,こんなにも保護されているのでしょうか?
それは,労働者が使用者に不当に拘束されてきた歴史から学んでそうなっています。一方,解雇(使用者から雇用契約を解約すること)は,使用者に対し様々な規制がかけられており,簡単には解雇できません。解雇の場合,労働者は,使用者のイニシアティヴで収入基盤を失うことになり,生活へのダメージがとても大きいため,簡単に解雇できないように様々な規制がかけられているのです。
(3)辞めるなら損害賠償しろ、は本当?
これも裁判所は認めません。
退職が,2週間(場合によっては1か月)の予告をもってなされたのであれば(その2週間又は1か月間は働く義務があります。),退職したことそれ自体について使用者に対して損害賠償責任を負いません。
上の(2)で書いたように,退職の自由は強く保護されています。簡単に会社の損害賠償請求を認めたのでは,事実上会社の「お許し」を得ない限り辞められなくなってしまします。
(4)退職後に同業他社に就職したり独立したりしないことの誓約書を書け,は断れないの?
書く義務はありません。むしろ書いてはいけません。
退職の自由は強く保護されています。退職後にこれまでのキャリアを生かした転職先に就職できないのでは,同じく事実上会社の「お許し」を得ない限り辞められなくなってしまします。それに何より「職業選択の自由」を直接侵害するものです。
では,もしサインしてしまった場合はどうなるのでしょうか。
ケースバイケースなのですが,結論だけ述べると,サインした約束が有効となる場合は例外的です。ですから,サインしてしまったとしても,多くのケースでは退職後の就職先の制約は受けません。
(5)「辞めます」は証拠に残る形で伝えましょう
会社を辞めるときに注意することは,退職の意思を会社に伝えたことをきちんと証拠に残すことです。
退職の予告期間の起算日(カウント開始日)を決めるため重要です。
仕事で電子メールやLINE,その他チャットツールなどを使用しているのであれば,退職の意思を口頭や書面(紙)で伝えるだけでなく,これらも使って会社を辞めることを伝えましょう。誰から,誰に対して,いつ,どのような内容の文章を送ったのかを証拠化できます。
もし,電子メールなど使っていない場合は,退職の意思を内容証明郵便物として会社に郵送することも考えましょう。
(6)退職妨害の方便として会社が言ってくることのほとんどは気にしなくていい
これまでに書いてきたように,退職妨害の方便として会社が言ってくることのほとんどは裁判所には通用しない理屈です。
それでも心配だ,という方は当事務所までご相談ください。
以上
ある日上司から呼び出され部屋に入ったら「もう会社に来なくていい」と言われてしまった。でもこのまま泣き寝入りはしたくない。
そんなときどうしたらいいのでしょうか。
1 会社の「もう会社に来なくていい」という発言の意味をはっきりさせる
会社(雇い主。個人事業主でも同じです)の「もう会社に来なくていい」は,解雇なのかそれとも退職強要(退職の説得)なのかを質問してはっきり回答させなければなりません。
解雇は,雇い主(法律用語で「使用者」といいます)が雇用契約を途中解約することです。
退職は,雇われている側(法律用語で「労働者」といいます)が雇用契約を途中解約することです。
(1)会社が解雇だと答えた場合
会社が解雇だと答えた場合は,「解雇理由証明書をください」と言ってください。
労働者にこう言われた場合,会社には解雇理由証明書を交付する法律上の義務が発生します。
(2)会社が退職の説得だと答えた場合・はっきり答えない場合
会社が退職の説得だと答えた場合や,はっきりとは答えない場合は,退職に応じる義務はありませんので,退職しませんと答えます。精度明日以降の出社の要否などについて会社に確認してください。
2 「解雇予告手当をください」「退職金をください」とは言わない
「解雇予告手当をください」「退職金をください」と言うことは解雇を受け入れることを前提とする行動ととられかねないため,言わないでください。
ただし,もし言ってしまっても,この言動のみで裁判所が「解雇を受け入れたんでしょ?」とは通常判断しません。
3 雇用保険は受給していい
離職票を受け取り,雇用保険(いわゆる失業保険)の各種手当を受給することは問題ありません。受給したことをもって裁判所が解雇を受け入れたのだと判断することはまず考えられません。
ただ念のため,解雇を争うことを決めているとき,決意まではしていないが解雇を争うか迷っているときは,そのことをハローワークの窓口で告げてください。必要な対応を通常してくれます。
4 解雇にはさまざまな規制があって会社にとってハードルが高い
解雇は雇い主(使用者)から雇用契約を途中解約することですから,雇われている側(労働者)は突如として給料(法律用語で「賃金」)という安定的な収入を失うことを意味し,生活への影響ははかり知れません。
そのため解雇にはさまざまな規制があって会社にとってハードルがかなり高いものになっています。ですから、会社は簡単には解雇できない、ということを念頭においてください。
簡単にあきらめてはいけません。
5 正当な権利を主張して会社に責任をとってもらう
解雇にはその理由によって,能力不足解雇,整理解雇,懲戒解雇などさまざまな名前がつけられています。いずれも条文に書いてあるわけではありませんが,いずれも会社にとってのハードルはかなり高いものになっています。
少しでも会社のやり方に疑問をもったときは,労働者側の労働問題に詳しい弁護士に相談し,解雇を受け入れなければならないのか,そうではなく正当な権利を主張して会社に責任をとらせることができるのかについての助言を得てください。
そうすれば,相談結果がどのようなものになるにせよ,あいまいな気持ちを抱えたまま次のステージに向かうということにはならないはずです。